ドイツ旅行記



~ミュンヘンでのトランジット~

僕はドイツ・ミュンヘンの空港にいた。10ヶ月前「1年で世界一周してくる」と家族や友達に言って日本を出て、メキシコに旅立ち、ようやく中南米を周り終えたところだった。

中南米は楽しかった。ライブモカというサイトを使い、スペイン語を勉強しながら中南米の友達をネット上で作り、その家にホームステイをしていくという旅のスタイルを確立し、宿に泊まるよりも多く友達の家に泊まり、旅行者よりも多く現地人と話をしてきた。

旅をしているというよりもホームステイをしているのに近かった。学校へは行っていないがその国で生活している感覚だった。段々と僕の中南米の生活は長くなり、僕は1年で旅を終えることはできなくなった。あの約束がなければ僕はまだ中南米にいたことだろう。

僕はこの旅に出る前の段階ですでにユーラシア大陸の国々、もちろんドイツも含めて、既に行った事があった。中南米で旅を終えてもよかったし、事実それを真剣に考えた。旅を終えて、次の展開を考えた。

だが、それはできなかった。僕にはまだ見るべきものがあった。少ないながらも会うべき人たちがいた。僕はそこに対してだけは貪欲だった。失敗してもいいから行動したいと思いながら、ドイツにやってきた。

もともと、もし中南米のあとに旅を続ける場合はヨーロッパをまわる予定だった。だが、僕はどうしてもエジプトのカイロに行きたかった。エジプトは7年前に行ったことがある。なのにもう一度行きたかったのは、ここで大切な人と会う約束をしていたからだった。

ドイツはそのトランジットでしかなかった。ドイツからエジプト行きのチケットは安かった。だが、僕はエジプトが終わったらなんとなくヨーロッパに戻ろうと思っていた。事実、イスラエルのテルアビブからイスタンブールのチケットは持っていた。



ミュンヘンの空港から僕は事前にホステルブッカーズで見つけた宿の住所のメモを頼りに、セントラル駅に向かった。ドイツの列車は無料で乗れた。なぜ無料なのかはわからなかったが、6年半前に来たときに、車掌が抜き打ちでやってきて見つかったら倍の料金を払うシステムだった気がしたが、特に気にもしなかった。

セントラル駅に向かい住所を頼りに宿を探したが、ミュンヘンには無数のユースホステルがあり、調べた安宿に行く必要はなさそうだった。だが、僕はユースホステルでチェックインをしようとしたが、フルと言われた。南半球が真冬になる季節、ヨーロッパは夏。夏休みのバカンスで旅行している学生でドイツはごった返しているようだった。

ほかの宿を数件まわってみても、すべてフルだった。普通の安ホテルは開いていたが、35ユーロから40ユーロくらいした。ユースホステルですら20ユーロ前後するこの国で今後生活できるのか不安になった。そして不安と同時に楽しみにもなった。

そろそろ、カウチサーフィンの出番がきた。僕は旅に出る前に、最初に中南米に行くため、中南米の友達を集中的に作っていた。中南米ではライブモカで友達がたくさんできたため使う必要はなかったが、ヨーロッパにはそんなに多くの友達がいるわけではなかった。

日差しが強い。久しぶりに夏を経験した。だが、暑い中、重いバックパックを背負って歩くことはそんなに大変ではなかった。強盗やスリにおびえることなく、高山病になるわけでもない。むしろ僕にとっては物足りなさすら感じていた。

ヨーロッパだったら野宿もできるかもしれない。「エジプトから戻ったら、ヨーロッパ野宿計画をやってみようか。」そんなことを考え始めていた。

2時間ほど歩き回り、一つのユースホステルにチェックインをした。欧米人の若者が併設されているパブでビールを飲んでいる。僕は完全に場違いだなと思いながらブラジルで買ったパスタを茹でようとしたら、このホステルにはキッチンはないと言われた。

自炊ができないヨーロッパは僕にとって地獄でしかなかった。ユーロは安くなったとはいえ、日本より全体的な物価は高めだった。中南米から来ているから余計に物価は高く感じた。そして日本と同じように何もかもお金を払わなければならない。水を飲むのも、洗濯をするのも、ネットをするのも、何をするのにもお金がかかった。ここに長くいたくはなかったが、エジプトに行くまでの間はいなければならない。夜遅くまで若者がパブで騒いでいるうるささを我慢しながら3日間、このミュンヘンで過ごした。

だが、ミュンヘンの街を歩いているだけで、ヨーロッパにはお金を払うだけの価値があると気づいた。街並みは息を呑むほどに美しい。僕はもともとヨーロッパが好きで好きでたまらない人間で、一度ドイツ・イタリアより東の国々を隅々までまわったことがあった。このあと、フランス、スペイン、イギリスにいけると思うとやはり胸はわくわくした。

歴史上長きに渡り世界を牛耳り、覇権を握ってきた国々。ローマ帝国から始まり、大航海時代を経てアジア・そしてアメリカ大陸をめちゃくちゃにした国々。この歴史と言う名の重みを感じずにはいられなかった。中南米の街並みは当然きれいだが、ヨーロッパは綺麗さの重みが違う。落ち着きと静けさ、僕の胸を打つものがたくさんあるはず。そこはどんなにお金がかかっても一生の中で、できれば若い感性の中で見たい。その思いは消えてはいなかった。

だが、あの人と会うためにまずはエジプトに行きたい。

その思いを持ちながら、あの文学少女に渡すために、僕は若きウェルテルの悩みを買った。

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