vedi Napoli e poi mori~ナポリを見てから死ね





~vedi Napoli e poi mori~ナポリを見てから死ね ~

駅のベンチでカウチサーフィンのホストを待っていると一人の欧米風の若者が来た。僕は一瞬で彼がラウルだと分かった。カウチサーフィンで事前に連絡を取り合っていたジュリーから「トリノに行っているから、代わりにルームメイトのスペイン人ラウルが迎えに行く」という連絡があった。

僕はラウルに挨拶をして彼らの家に向かった。彼らの家は駅からちょっと離れたスペイン人地区にあり、地下鉄は動いていなくバスは込んでいた。人でいっぱいのバスに乗りながら僕らはスペイン人地区にたどり着いた。

スペイン人地区は特にスペイン人が住んでいるというわけではないが、どういうわけかスペイン人地区と名づけられていた。。僕はこの汚くて狭い道。イタリア人のうるさい声、いたるところにある洗濯物、を見て、ナポリに来た実感が沸いた。

この家の住人であるジュリーとラウルとルビーナとソーニャの4人は一つの広い家をルームシェアしていた。僕はルームメイトのルビーナと挨拶をして、ラウルは「ジュリーとソーニャは数日後に帰ってくる」というようなことを言った。彼らはみんないい感じに駄目な人たちだった、部屋は汚くて片付いていなくて洗物もそのままになっていた。僕はなんとなく親近感が沸いた。

僕は居間の部分にあるソファーに寝ることになった。

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数日間、僕はラウルやルビーナや帰ってきたジュリーと一緒に過ごした。彼らと一緒にナポリを歩き、時には一人でナポリを歩いた。

ナポリを見てから死ね~vedi Napoli e poi mori

ローマから見て南に位置するこの街は僕が行きたい方角と逆だったため、僕はここに来るつもりはなかった。だが、ふとしたことからナポリを意識するようになり、この言葉を知った。僕はなんとなく決めていた目的地と方角が逆であるにもかかわらずこの街に来ることを選んだ。それはこの言葉が僕にとってあまりにも印象的で、僕にナポリに行かずには死ねないと思わせたからだった。

その言葉は間違いではなかった。この小道は僕が想像していたイタリアだった。今まで見てきたヨーロッパと違って、汚くて、うるさくて、小道を子供がバイクで3人乗りしていて、洗濯物が無造作に干されている。僕はこの光景を幼いころにテレビアニメの世界名作劇場で見たことがある気がした。

ナポリ

ナポリ

ナポリ

ナポリ

サンマルティン広場にある城に登ったとき、。もう一度、「ナポリを見てから死ね~vedi Napoli e poi mori」を思い出した。

ナポリ

この景色も幼いころに見たことがある。おそらく世界名作劇場なのだと思うが、実際はテレビなのか絵本なのか分からない。だが、確実に僕がイメージしているヨーロッパはこういうものだった。

もちろん綺麗なヨーロッパもヨーロッパであり、お城があって、教会があって気品あふれる人たちが歩いているのもヨーロッではあるが、このジブリの映画に出てきそうな、ラピュタでパズーがすんでいる村のような、ポルコロッソの舞台のような、何か分からないけれど、汚いけれどカラフルで明るくて、楽しくて、暖かくて、気分がわくわくするような、ヨーロッパ。これこそが僕が幼いころに思い描いていた場所だった。

僕は幼いころから何故かヨーロッパに憧れていた。だが、今まで数々の素晴らしい景色を見てきたのにもかかわらず、幼いころに見たあの光景だけは掴むことが出来なかった。その場所がどこかも分からなかったし、大人になってからそれを調べることもしなかった。子供のころの記憶は曖昧で美化されているのだろうと思っていた。

だが、その光景はここにあった。僕は死ぬまでにナポリを見ることが出来た。それは僕が幼いころ、物心ついたくらいにどこかで見た景色そのものだった。

僕は何日間も同じ場所に来て同じ景色を見た。

ナポリ

ナポリ

夜はビールやワインを飲んだ。ラウルはスペイン人だったが、後はみんなイタリア人だった。僕は彼らに日本食を作ってあげたり、ナポリ名物ピザマルゲリータを食べたりした。ナポリはローマより物価が安く、ホールピザが2ユーロほどで買えた。僕はラウルと一緒にピザを買いグダグダと話をしていた。イタリア人はほとんどイタリア語しか話せず、お互い片言の英語で話した。

イタリア人はだらだらとしていて、夜になれば道端で酒を飲みジョイントを吸っていた。それは家の中でも同じだった。家の中でビールやワインを飲み、ジョイントを吸う彼らを見て、イタリアっぽい音楽やジャズがパソコンから聞こえてきて、僕はまるで映画の中にいる気がしてきた。彼らと話をするときはラウルに訳してもらっていたため中まで入り込むことはできなかったが、それでも僕にとってイタリアを感じる上でこの家は十分すぎるほど楽しかった。

家の中には常にあの匂いが充満していた。僕はその匂いも嫌にはならなかった。

僕はナポリという街もイタリア人も大好きになり2日間で出る予定を変更してミラノ行きのチケットを捨て、新たに50ユーロ出してジェノバ行きのチケットを買った。

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