フランス・ニースでのカウチサーフィン





~エレガントな食事会~

ニースに来る前に僕はアクセルに1日だけとめて欲しいとお願いをしたにもかかわらずいつの間にか、何日も経過していた。僕は治験の関係でニースには10日ほど滞在せざるを得なかったため、出来ればロンドンの出発日までこの家にいたかった。

アクセルは徐々に怪訝そうな顔をして時々「いつまでここにいるんだ?」と聞いてきた。僕は「まだ分からないからもうちょっと待って」と笑って誤魔化しながら滞在していた。結局最後には○日の飛行機だから○日まで泊めてほしいと言うと、彼はぶっきらぼうに「いいよ」と言った。こうして結局ニースでの10日間は宿代なしで滞在できることとなった。

アクセルは仕事をしているため、日中顔を合わせることはなかったが、夜には時折僕をフィエスタに招待してくれたり、一緒にご飯を食べたりした。アクセルはあまりベラベラと話をするタイプではなく、どちらかというと寡黙な人間であったが、あるとき僕が居間で偶然ユーチューブでマリオの動画を見ていた時、「お前ゲームすきなのか?家にはWiiがあるぞ。一緒にやるか?」と言った。僕は別にゲームが好きなわけではなかったが、夜には時間をもてあましていたので、また、彼とコミュニケーションが取りたかったため、一緒にゲームをやった。

アクションゲームのマリオをやったのは20年ぶりくらいだった。子供のころにファミコンでやった記憶は消えてはいなかった。ゲームは格段に進化していたが、基本的なやり方は変わってはいなかった。僕は子供のころを思い出し久しぶりに熱中してやった。僕がマリオで彼はルイジ、僕らは2Pで協力しながらクッパ城を攻略した。

彼は人が代わったようにテンションがあがり僕らの壁は急速に縮まった。



いつの間にか他のカウチサーファーも彼の家に泊まるようになった。ブラジル人とスイス人の夫婦。中国人と台湾人の若い女の子たち。台湾人のチャンはフランスで中国語を教えている学校のアシスタントをしているようだった。さらに彼の友達も来たりして、家は急激ににぎやかになった。

僕はこの間、モナコからニースまで歩いて帰ってみたり、いつものようにニースを歩き回ったりしていた。ダラダラしながらも歩き回るというこの旅の癖はここでも全く同じように続いていた。最終日の夕日は綺麗で、海も綺麗で僕は感動すら覚えた。いろんなことを考えているけれど、綺麗な景色に感動する感覚は忘れてはいなかった。

ニース

アクセルはぶっきらぼうな性格とは裏腹に、ゲームと料理と日本文化が大好きなお茶目な一面も持っていた。僕は滞在後半になってようやく彼との壁がなくなり、笑いあうようになった。僕がニースに滞在する最後の二日間、彼はフランス人友達を招いて自分で料理を作り、ご馳走をしてくれ、2日目は他のカウチサーファーがご飯を作って、僕が買ってきたワインを飲みながら食事会のようになった。みんながフランス語が話せるにもかかわらず、僕がフランス語が話せないために、やりとりは英語に変わっていった。

楽しかった。イタリアとはまた雰囲気の違う優雅でエレガントな大人の雰囲気。年齢層も高い。アクセルが作ってくれたフランスの煮込み料理にデザート、フランスのワイン、最後にはエスプレッソ、そしてイタリアと同じように、でもイタリアとは違ってエレガントに、彼らはジョイントを吸った。僕はフランス料理とフランスのエレガントな空気を満喫した。

何もかもが優雅なフランス。僕はニースに来る前に、フランス人は冷たく寂しい思いをするのではないかと思い、自分には似合わないと勝手にイメージを作っていたが、そんなことはなかった。

アクセルの友達のバージニアとアクセルと僕はベランダに行って、ゆったりと話をしていた。僕は勝手にフランス人に対して苦手意識を持っていたが、その意識は完璧に変わった。静かに優雅でエレガントな彼らとも、特に何の隔たりもなく話が出来て、一緒に笑いあった。

この坊主で黒人で寡黙な男は一瞬怖そうに見えてものすごい、いい人だった。ファニーとああいうことになってしまって、ニースは楽しめなくなるかと思ったが、また別の方向で、全く期待していなかった方向で、ニースに、フランスに、また一ついい思い出が出来た。

僕は朝が早かったため、みんなと握手をして、女性とはベシートをして、フィエスタの最中に居間で寝てしまった。多くのカウチサーファーが彼の家に泊まっているため、僕は居間のソファに寝ることになっていた。朝起きると居間には誰もいなく、まだ朝日は昇っていなかった。僕は暗い中空港に向かった。

イタリア・フランスといい感じにきていた。次はイギリス。「治験が出来ても出来なくても、楽しみたい。」僕の願いはそれだけだった。眠い中空港行きのバスに揺られながら、心の中はイギリスのことを考えてわくわくとしていた。

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