北アイルランド旅行記





~ファックな宿での楽しい日々 ~

あれから数日間、僕は何故かこの若い日本人旅行者と一緒にいた。

僕が朝起きてリビングに行くと彼女がいて「おはようございます」という言葉で一日は始まった。午前8時半でも夜明けみたいな空の色で午後3時半には夕焼けになる緯度の街で僕らは日中、特にやることもなく喋ってダラダラとしていた。北欧並みに緯度が高い北アイルランド。当然だが普通に緯度が高いアイルランドの中でも北に属する。

宿のリビングは暖房がつかない。このファックな宿はどこに行っても寒く、働いている欧米人にストーブをつけろと言っても欧米人特有の上から目線で無理だと言われるだけだった。僕らはまたこの宿の文句を言いながら食事だけは作った。昼食も夕食も外食はしたくなかった。外食が高いというよりも単純に寒すぎて外にあまり出たくなかったからだった。

しょうが焼きは美味しかったが作るのが手間なので簡単に出来るパスタを作った。ベーコンを切ってブロッコリーを切ってマッシュルームを切って市販のソースと絡めて茹でた麺に絡めるだけ。簡単に出来る割には美味しかった。

オアシスのアルバムを聞きながら、二人でパスタを食べまたダラダラとする。するといつの間にか暗くなる。

だが、夜にはなぜかやることがあった。ヨハネスが誘ってくれたパーティーに参加し、宿で知り合ったイタリア系アルゼンチン人アドリアーノとヨハネスとその友達の欧米人に囲まれながらクラブのような雰囲気で楽しく過ごしていた。英語でのやりとり、、、、パーティーで英語でやりとりをするということが楽しくて楽しくてしょうがなかった。ヨーロッパで酔っ払って英語でやりとりする、、、このヨーロッパ的雰囲気は僕が10年間追い求めてきたものだった。

そのある種の夢というものを叶えている中、僕はジンとウォッカにやられ、僕はゆきが引くレベルに死ぬほどに酔っ払っていた。「俺、ゆきのこと好きだから!ちょっと心配になる!」と言った記憶だけはあった。それ以外の記憶はほとんどなく目の前がギラギラとゆれる感覚の中、アドリアーノとテンション高くハイタッチしながら宿に戻り、生命の危機を感じるほどに苦しんだ。

次の日はアドリアーノと共に3人で外に出て街をブラブラした。行くところもなくなり結局KAVE-Cafeでまったりし、夕食の材料を買いに、テスコに向かった。街を歩きながら「ここリアルディズニーランドだな」というような会話をしたとき「・・そういえば去年もメキシコで同じようなことを言っていた気がする」という思いが頭をよぎったが、あえて自分の心の中から消した。

アドリアーノは日本的感覚でのセクハラをしていてゆきも微妙に嫌がっているようだったが僕は何も言わなかった。ゆきに「これ以上我慢できなくなったら守るから言って」とだけ言ってそのままにしておいた。僕は初日に彼女とロゼワインを飲みながら夜を明かしたときに話した内容を思い出した。

宿に戻り少しだけ部屋でゆきとはなしていると彼女は僕に対しての壁がなくなったのか段々と敬語ではなくなった。そして「ごめん、下のジャージとって」とごく普通に言うようになった。僕は「修学旅行みたいだな」と言い笑っていた。



あくる日、アドリアーノはいなかった。僕らは宿が寒いという理由だけで宿を出て、いつものKAVE-Cafeに向かった。ここで彼女がイタリアの宿を探すのを手伝っていた。彼女はテルミニ駅に近い宿がいいと言ったので、地図の見方とかレートの見方とかを教えて彼女が選ぶのにアドバイスをした。アドバイスが変な長期旅行者のような上から目線にならないように無意識に気をつけていた。そしてその間、ファックな宿を変えるため、僕はもう一つの6ポンドの宿を取った。ホステルブッカーズのレートを見ても写真を見てもあまり期待は出来なさそうだった。

気がついたら暗くなっていた。日が落ちるのは日に日に早くなっていている。来たときは日曜日の昼らしく結構な人だかりだったメインロードは誰もいなくなっていた。雨も降ってきている。僕らは暗く雨がしとしとと降っているリアルディズニーランドでさらにクリスマスのイルミネーション全開の街を会話もなく歩いた。とりあえずパソコンがぬれて壊れるのを避けたかったためいったん宿に戻ったが、宿の中にいても寒さは変わらず、宿のキッチンでお湯が出なく洗物がきついため、また最後の日ということで、外食をしにもう一度外にでた。雨はやんでいなかった。

寒い中一軒の中華料理屋に入り、辛いラーメンを頼んだ。普段ほとんど辛いラーメンを食べることはないが、とりあえずこの寒さを何とかしたかった。店内もそこまで暖房は効いていない。とりあえず温かくて辛いラーメンを食べれば少しはマシになると思い、即オーダーをした。彼女は普通にチャーハンをオーダーしていた。

・・・初日に話し込みすぎたせいか、この数日間の間に段々とそこまでベラベラベラベラと話すことは少なくなってきていた。だが、何故かラーメンを食べ終わった後、僕らは初日のように話し込み始めた。会話が盛り上がってくると僕らはロゼワインを買おうという話になった。アイルランドでは席のチャージを払えばアルコール類の持込が可能だということを彼女は教えてくれた。

ロゼワインが入ると会話はとまらなくなった。僕は主に彼女の男に対しての話を聞いていた。元彼のアイルランド人を含めた男を好きになるということについてずっと熱く語り合っていた。そして「なんかガールズトークみたいだな」と言い笑った。

彼女の性格は自分の若い頃にとても似ていたため、男女の差はあるけれど、僕はどうしても自分の過去と照らし合わせてしまっていた。そして男の話から人生の話になり、彼女のある不安を僕はずっと聞いていた。そしていつの間にか店を移動し、フィッシュアンドチップスを食べながら、紙に図を書いてまでいろんなことを話し合い、僕は彼女に対して色んなことを言った。恐らくこんなこと言われたくないだろうな。と思うようなことも言った。僕は彼女を信頼していた。彼女に対して表面的にいい人になるのではなく本気でいい人になろうと思った。別にいい人になったところで何のメリットもないけれど、ただ単純に自分の若い頃に似ている彼女の性格が心配になった。彼女はそれに対して真剣に聞いてくれている感じがした。

・・・気がついたら夜中の1時くらいだった。雨は少しやんでいた。結局僕はこの若い旅行者と数日間ほとんど一緒にいてずっと話していた。

だが、そんな日々も終わりは近づいてきていた。

彼女はローマ行きの飛行機に乗るためダブリンに行かなければならなかった。僕は見送りに行こうと思い、彼女と一緒に宿を出た。また、ファックな宿を変えるため事前に別の宿をホステルブッカーズで予約していた。アドリアーノは寝ていたが特に起こすこともしなかった。

尋常じゃない寒さの中、グレートビクトリアストリートを歩いた。天気はよかったが気温が上がるわけでもない。12月に入り、僕が来たときよりも確実に寒さは増していた。

宿から10分ほどでヨーロッパバスステーションに着き、僕らはネットの繋がるカフェに入った。前日と同じようにカフェに入ってもそんなに暖かくない。ベルファストの人はもう寒さに慣れてしまっていてそこまで暖房器具を必要としていないのだろうなと思いながらダラダラと話し込んでいた。

1時間ほどで彼女が出発する時間はやってきた。僕はバスの入り口まで見送りに行き、「ありがとう。じゃあまたスカイプで」と話しながら僕はこの英語ペラペラの若い女の子と別れた。久しぶりに楽しく、心の底から日本人と語り合った充実感があった。今回の旅で出会った中では数少ない、旅中で別れてからも連絡を取りたい日本人だった。

・・その後、寒さで外に出たくないという一心でカフェに戻り、新たにサンドイッチを頼んでダラダラしていた。気がついたら外は真っ暗になっていた。だが、時計を見てもまだ16時半だった。

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