北アイルランド/マルタ人にカウチサーフィン





~マルタ島~

ライオットは翌日も続いていた。フランス人たちの話によると、どういう理由からは分からないが、北アイルランド政府がシティホールに掲げてある連合王国国旗ユニオンジャックをを降ろしたことによるユニオニストの反政府デモということらしかった。

「グレートブリテン及びアイルランド連合王国」とは一昔前のイギリスの正式名称である。歴史的にイングランドはスコットランド・ウェールズ・アイルランドを併合し、一つの国とした。だが、アイルランドはイングランドから独立しアイルランド自由国を建国したものの、アイルランド北部の州のみ、独立を拒否、連合王国への帰属を表明。それは経済的理由であった。このため現在は正式名称「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」となっている。

イングランドのプロテスタント・アイルランドのカトリックという宗教的理由からアイルランド独立派は北アイルランドのアイルランド帰属を主張、経済的理由から連合王国帰属を主張しているユニオニストとの争いは続き、1998年には大規模な紛争も起こっている。現在は比較的平穏だと思われていたベルファストでこのようなことが起こるとは予想もしていなかった。

シティホールに行くとユニオンジャックを掲げた人々が反政府演説のようなものを繰り返しデモ行進も行われていた。

ベルファストの暴動

だが、こういう政治的な行動は外国人にとっては何の関係もないことだった。僕は郊外にあるベルファスト城を一人で観光し、フランス人の家に戻った。彼女らはフランス語学校のアシスタントをしていたため仕事が忙しそうだった。僕はあまり邪魔しないように自分の部屋にいた。

彼女らと別れ僕は次のホストファミリーの元に向かった。シャノンとベンとは数日前にここベルファストで一度だけ飲みに行ったことがあった。その後数日間だけ泊めて欲しいと頼み僕は彼らの家に行くことになった。ライオットも収まった夜、僕はいつもと同じようにシティホールの前で待ち合わせをした。

彼らはマルタ人だった。マルタはイタリアの南にある小さい島。公用語は英語。このことを知ったのはつい数ヶ月前だった。僕はそれまで国土がない国マルタ騎士団との違いもよくわかっていなかった。イスラエルにいたときに日本人の誰かがマルタという公用語が英語の島があって英語留学の穴場だということを教えてくれたことを思い出した。

ヨーロッパには伯爵・大公・公爵の国々、国土が極端に小さい所謂ミニ国家と呼ばれる国がいくつかあり、僕はすべて知っているつもりだったが、マルタはあまりよく知らなかった。モナコ・リヒテンシュタイン・ヴァチカン・アンドラ・ルクセンブルク・サンマリノ・そしてマルタ。こういうミニ国家の人と友達になるということはかなりレアで、地理マニアの自分としては最高に嬉しかった。

僕は彼らの家で彼らと一緒に生活をした。彼らはそれぞれ不規則な時間にアルバイトをしているが、偶然にもこの日は二人とも仕事がなかった。彼らもそんなにきびきびと動くタイプではなく、3人でダラダラしていたらいつのまにか日は落ちて暗くなっていた。僕は彼らと一緒にテスコに買い物に行き、アジアンマーケットで材料を買い、日本食を作った。カレーはルーさえあれば簡単にに作れ、そしてどんなに失敗してもそこまでまずくはならないということをベルファストに来てから知った。

アジアンマーケットでカレールとート野菜と肉を買ってカレーを作り、3人で食べた。マルタというヨーロッパの小さい国と極東の不思議な島国の人間が一緒に日本食を食べているのはシュール以外の何物でもなかった。だが、ゴールデンカレーのあまりの美味しさにそのシュールさは消し飛んだ。

シャノンはアジアンマーケットにいたときに、日本のライスワインが飲みたいと言い出し、僕は韓国のチャミスルを勧めた。日本の酒ではなかったが、自分が一番好きな酒を選んだ。食事を終え、僕らはチャミスルを飲みながら英語字幕の日本のドラマを見た。

マルタの公用語は英語であり、彼らは英語のネイティブだった。スペイン語のネイティブの友達がたくさんいる反面、僕は英語のネイティブの友達がほとんどいなかった。理由は分からないが英語ネイティブとはあまり気が合わないという自分の思い込みは原因の一つとして確かにあった。それを捨てた今、僕は数少ない英語ネイティブの友達が出来た。

僕は初めて英語ネイティブの家に泊まり一緒に生活した。また彼らとは何故か気が合った。彼らのよくわからないハングリー精神や音楽性などは僕にとって好ましかった。また、ベンは日本に来たこともありある程度日本のことも理解してくれた。

たった2日間しか一緒にはいなかったが、僕はこのマルタという英語ネイティブの人たちと英国内でダラダラと話をした。英語ネイティブと英国の言葉を話すというのは僕にとってインターナショナルとはまた別の意味のものだった。また彼らは実にいい人たちだった。そのいい人さは、さらに僕の気分を高揚させた。

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