ウクライナ/ウージュホロド





~東欧と中欧~

旧ソヴィエトにありそうなぼろぼろの車体の夜行列車にはベッドがついていた。ただ椅子に座って朝まで眠れないまま過ごすのかと思っていたが、思いのほか、横になることができた。僕はバックパックの中に常備している毛布をかけて眠った。

気がついたらウージュホロドに到着していた。ここはスロバキア・ハンガリー国境に程近いウクライナ東部の大きな街。ハンガリーからドイツに帰るチケットをもっているため、必ずこの街を通らなければならなかった。また、ルーマニアへ行く予定を変更し、時間をもて余したため、ほかの街に行ってみたかった。

駅の前にいたタクシーの運転手に宿の住所を見せ、そのまま宿に向かった。ウーシュホロドもリヴィウと同じような、綺麗な街並みだった。その綺麗な街並みに映える朝日を見ながら宿に向かった

ウージュホロド

宿は静かで広くて素敵な場所だった。街並みは綺麗で、物価が安く、宿が落ち着く。ここもリヴィウと同じように、ウージュホロドも沈没するには最高の場所だとも思えた。

僕はここでもカウチサーフィンを使って友達を作った。もう、何回も使っているせいか、徐々に慣れてきた。物価の安い国ではそこまで家にこだわる必要はない。はじめはヨーロッパの物価の高さを凌ぐため、野宿をしようという計画もあったが、いつの間にかその計画は崩れた。というよりも、カウチサーフィンがあまりにもうまく行き過ぎたため、野宿をする必要性がなくなっていった。

ウクライナは物価が安い。アルゼンチンやブラジルやトルコよりもさらに安くなる。まるでアジアにいるような感覚になってきていた。

そのせいか、僕は西欧にいたときにはできなかったような贅沢をした。外食をしたり、おやつのパンを買って食べたり、夜は缶詰を買ってビールを飲んだりしていた。これが世間一般の贅沢なのかはわからないが西欧でお金をあまり使っていない僕にとっては相当の贅沢だった。

ウーシュホロドはロシア風の雰囲気が漂っていた。リヴィウと同じようにどこに行っても白人しかおらず、女性はみんなびっくりするほど美人で、見慣れないキリル文字が書かれている。教会があり広場があり、レストランがあり、そして寒い。だが、ここはリヴィウと違い、多くのカトリック教会に紛れていくつかのロシア正教会があった。僕はこれまでカトリック教会は嫌というほど見てきたが、ロシア正教会を見たことはほとんどなかった。

ローマが東西に分裂したように、キリスト教も東西に分裂した。西ローマ帝国の首都ローマを総本山とするカトリック、東ローマ帝国の首都コンスタンティノープルを総本山とする正教会。カトリック教会はある程度日本人に馴染み深いが、正教会は主に東欧や南欧、ロシアやウクライナやルーマニアやギリシャなど、西欧に比べて身近とは言えない国に存在するため、カトリックの教会よりもさらにエキゾチックだった。

僕は久しぶりの真っ青な空の中、ハリストス顕現主教座正教会を見てずっと写真を撮っていた。

ハリストス顕現主教座正教会

ハリストス顕現主教座正教会

スロバキア国境・ハンガリー国境まで程近いウージュホロドはロシアっぽさに加えて中欧の雰囲気も漂っていた。宿のスタッフは「リヴィウにはポーランド人が多く住んでいてポーランドの雰囲気があるけれど、ウージュホロドはスロバキアやハンガリーの雰囲気がある街だ」と教えてくれた。

ここからバスで40分ほど行ったところにあるムカチェボという街の城からの見た景色には赤い屋根のフランスやイギリスとは違う中世ヨーロッパの伝統的な民族が住んでいそうな雰囲気を漂わせ、その雰囲気とロシア正教会のたまねぎのような教会が交じり合いエキゾチックさをかもし出していた。段々とここは東欧なのか中欧なのか、そもそもどこからが中欧でどこからが東欧でどこからが西欧なのかがまったくわからなくなってきていた。

ムカチェボ城

カウチサーフィンでの友達は一人だけ到着した日に会い、残りの人たちは数日後に会うことになった。ウクライナ人と友達になれるというチャンスは普通に生きていてあまりないだろうが、インターネットを使うことでいとも簡単にできるということを知った。

彼女は街を案内してくれ、お互い慣れない英語を使いながら僕らは街を歩き、カフェでコーヒーを飲みながら談笑していた。僕らは一通り世間話をして気がついたら街を一周してしまっていた。ウーシュホロドは思いのほか小さい街だった。

数時間話し込み、僕はまたひとつ、インターネットを使うことでいとも簡単に、普段日本で生活していたら耳にすることはほとんどないウクライナという国で、友達を作った。

世界がどんどんと狭くなっていくのを僕は毎日毎日感じていた。遠い遠い存在だった外国はどんどんと近くなり、そしてその遠い遠い外国に対して勝手に幻想と妄想を描いていた僕は、この旅を続ける中で人はみな同じようなことを考え、同じように生活をしているということを感じてきた。

情報があれば、幻想や妄想は現実でしかないということを知った。

・・・そんなことを考えながら、この綺麗な街並みと異常な美人と落ち着く宿という最高の環境で僕はのんびりダラダラと毎日を過ごしていた。

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