マドリッドでのカウチサーフィン





~マドリッドのバーで~

エステルはセマーナサンタのため、実家に帰ると僕に言った。そのため僕は彼女の家をでなければならなくなった。何回も現地人の家に泊めてもらうことでカウチサーフィンは基本的には2~3日が限度であるとだんだんとわかってきた。彼女は夜働いている生活のためなかなかちゃんとコミュニケーションをとる機会もなかったし、彼女はあまり明るい性格でもなかったが、それでも彼女がホスピタリティーを持っていることを知っていた。僕は彼女がある日の夜仕事中にフェイスブックで「こんなにホストと話さないカウチサーフィンは珍しいでしょ?本当にごめんね。ちょっと悲しい」と言い、僕は「今までいろんなホストと会ってきていろんな経験をしてきた。大丈夫だよ。本当にありがとう。」と返したことを思い出した。

僕は多くを語らないがホスピタリティーあふれる彼女に心底感謝した。最後に家の前でベシートをして別れた。

僕は地下鉄に乗った。次のホストであるアンナの家に向かうためだった。

僕はライブモカで数ヶ月前にエヴァという女性と知り合っていた。彼女とはライブモカではたいして会話もしていなかった。いつ知り合ったのかも覚えていなく、仲がいい訳でもなかった。だが、「いつかマドリッドに行ったら連絡するよ」と社交辞令のように言った記憶だけはあった。その記憶のとおり僕は社交辞令のように「マドリッドに着いたよ。」とメールを送った。向こうから返信が来るとすら思っていなかった。

だが、数日前に、彼女は以外にも返信してきて僕らはまた「熊のモニュメントの前」で待ち合わせをした。彼女は友達を連れてきていて、そこにアンナがいた。二人とも僕より年上の世間で言えばおばちゃんの部類にはいるのだろうが、結婚もしていなくどこか若者の雰囲気がした。僕らは昼間からバーに行きビールを飲んだ。アンナは「いつでも私の家にも来ていいから」と言っていた。

彼女は突然「セマーナサンタで両親が家に来るからやっぱり泊められない」と言った。僕はついにマドリッドでのカウチサーフィン生活も終わりだなと思い空港泊を決意した。空港に泊まってその次の日にはセビーリャにいくしかないと半ばあきらめていた。むしろ、ここまで宿無しでよくやれていたとも思えた。本当は宿に泊まるのが当たり前で人々のホスピタリティーで成り立っているカウチサーフィンに期待するほうがおかしかった。

ただ、僕は彼女らともう一度バーに行く約束をしていた。たとえ家に泊まれなくても一緒にバーには行きたいと思っていたため、とりあえずバーに行っている間、荷物をおかしてほしいとフェイスブックのメッセージを送った。すると彼女は「一泊なら泊まっても大丈夫よ」といい、結局空港泊はなくなった。

・・チュエカという駅はゲイで有名な地区である。とスペイン人の友達の誰かが言ったのを思い出した。スペインではゲイやレズであることをあまり隠さない。今までも多くのゲイやレズを見てきた。日本とはまったく違う、むしろ先進的な文化であると思えた。

僕はカフェのテラス席に座ってタバコを吸っているとエヴァとアンナはやってきた。彼女の家に荷物を置かせてもらい僕らはラティーナ地区のとあるバーに行った。彼女らはここでコンサートがあると言った。さらに何か説明をしてくれたが、僕は彼女らのスペイン語の意味がわからなかった。

彼女らの友達もやってきて、がやがやした雰囲気になった。僕はもはや何日連続になるかわからないビールとワインを飲んだ。コンサートを聴き、完全に酔っ払った。

疲れがあったのか、僕は段々と何も話さなくなった。同じスペイン語であるのに中南米の人々と違う感覚を覚えてきてどうしていいかわからなくなった。むしろ中南米でも同じような感覚になったことがある。中南米を美化しているに過ぎない。ただ単純に僕は大人数でのわいわいした雰囲気が好きなのに苦手なのだと思った。何日も何日も続くこういう騒がしい雰囲気に疲れがたまってきた。

だが、彼女らはそんなこともお構いなしにワイワイと踊っていた。夜中の2時ごろまで飲み続け、僕は段々と眠くなってきた。眠くなると集中力もなくなりスペイン語もわからなくなる。スペイン語を話すことの喜びは徐々に飽きに変わり、一人になりたいという思いがどんどんと強くなってきた。

それでも僕はそれなりに楽しんでいた。人に期待しすぎてしまっている自分の性格を僕はすでにわかっていた。こういう疲れたときは空気そのものを楽しんだほうがいいということはいつの間にか旅の中で身に着けた知恵だった。僕はバーの音楽を聴き楽しんだ。スペイン人との会話と言うよりもスペインのバー、スペインの首都マドリッドの雰囲気そのものを楽しもうと思った。

人と話すのが好き。大人数でわいわいした雰囲気は好きなのに苦手。人と話すことが好きなのにもかかわらず、こういう風にこういう場で空気を読まずに一人の世界に入ってしまうから、自分は旅が好きなのだろうと思うと笑えて来た。

いつの間にか疲れはなくなり僕はまたエヴァや彼女らの友達と話した。別の席でありえないほど酔っ払いながら騒いでいたアンナは僕を呼び「もう、両親は断ったから2~3日家に泊まってもいいわよ」と言った。僕は酔っ払っていたためか、大声で「ありがとー!」といいハグをした。

夜中3時ごろになり家に帰る流れになった。皆で一緒にラティーナからチュエカに向かってあるいた。途中マドリッド最大の広場であり観光地の一つであるプラサデマジョールにいくと、大量のホームレスが寝ていた。プエルタデルソルからチュエカに向かうメインどおりには娼婦や危なそうな人たちがうろついている。「これがスペインか?」と心の中で思った。この風景はヨーロッパの中でもかなり危険な雰囲気をかもし出していた。むしろこれはコロンビアやペルーで見た光景だった。エヴァは「スペインの不況は本当にひどい。私も今は仕事がないし、たくさんの人が仕事がなくなってこんな風になっている」と言った。スペインの経済危機は日本にいたときからニュースで知っていたが本当だった。そういえば数日前にデモをやっていたことを思い出した。現実としてスペインは経済危機になっていると肌で感じた。

もはや先進国と思えないほどの風景にびびりながら、僕らはチュエカに向かって歩いた。

別れのベシートをしていたとき、友達の一人は僕のほほにキスをしてきた。酔っ払っているときにこういう風に異常にテンションが高くなるところはラテンのノリだなと思い僕はエヴァとアンナと一家に帰り、そのまま爆睡した。

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