コソボ旅行記





~のどかな街と純朴な人々~

バスの中で眠っていたら警察のような人がポンポンと肩をたたいてきた。どうやらここはイミグレのようだ。僕はコソボに入国した。イミグレにパスポートを渡した。コソボのスタンプがあるとセルビアの入国が面倒になるという情報をネットで見ていたので僕は彼にスタンプを押さないでという仕草をしたが、彼は意味がわかっていなかったらしく綺麗にコソボのスタンプが押されていた。

バスに乗っていると綺麗な山が見えた。こんなところで十年ほど前まで紛争があったということが信じられないくらい、のどかな風景だった。

コソボ南部の町プリズレンに着くと、バスの車掌は「ここでタクシーに乗り換えろ」というような仕草をした。そのままタクシーに乗り中心部に向かった。

僕は2006年にバルカン半島の国々を旅行したことがあったが、その時点ではまだコソボは紛争が終わったばかりで、国連の管理下にあるセルビアモンテネグロの一地域と言う扱いだった。その後2008年に独立し、南スーダンに次ぐ世界で2番目に新しい独立国となった。また、僕が以前旅行した数ヵ月後にセルビアモンテネグロは解体し、セルビアとモンテネグロという二つの国が出来上がった。

僕は2006年の時点でコソボという存在は知っていたが紛争が終わったばかりで危険地帯だと思っていたため、行く事はしなかった。だが、年月を経るごとに色々な情報を耳にし、自分の中で危険な国ではないという結論に至って訪れることにした。

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中心部のバスターミナルにたどり着き僕はWIFIカフェに入った。まずは宿を確保しなければならない。ホステルブッカーズで宿を予約し、宿の場所を確認したが、現在位置がわからない。カフェの店員に「ここの住所を教えてください」とグーグル翻訳のアルバニア語の画面を見せて紙にとおりの名前を書いてもらった。

住所と地図を写真に撮り、現在位置から宿のほうへ向かった。本当にこの道であっているのかはわからなかったが、とりあえず前に進んだ。

しばらくあるくと川が見えた。川の向こうに見える雪化粧をした山は美しく、またあたりも古きよきヨーロッパの歴史的な街並みだった。全体的にコソボはアルバニアと違い雰囲気がよかった。コソボ紛争の印象のせいか治安が悪いイメージを持っていたが、実際はまったく持ってそんなことはなかった。

コソボ

迷いながらも宿に着き、チェックインを済ませ少しだけダラダラとネットをやったあとに外を散策した。外は久しぶりに天気が悪かった。スコールのような雨が突然降り出したため、僕は昼食をかねてレストランに入った。

レストランではアルバニアと同じくキョフテというミートボールがあった。ここもアルバニアと同じく、オスマン帝国領であったせいかトルコと料理が似ていた。お腹いっぱいに食べても1.5ユーロと西ヨーロッパでは考えられないほど安かった。

いつの間にか雨はやみ、僕は街を散策し始めた。トルコの影響があるのはモスクも同様だった。プリズレンのモスクは完全にイスタンブールのものと似ていた。平べったく青い屋根にミナレットが聳えている。コソボはヨーロッパの中で数少ないイスラム教徒が多く住む街。赤レンガが続く純朴な街並みに青いモスクが映える。この光景は美しかった。

コソボ

コソボ

僕はルーマニアのクルージュナポカという街に行く予定であったが、ここまで移動費がかさんでいる上に時間がないということ、なおかつ以前にカウチサーフィンで知り合った人たちが軒並み実家に帰っていて会えないということで、行くのをやめることにした。そのため少しだけ日数に余裕ができ、2日間だけプリズレンに滞在した。

プリズレンは特に何があるわけでもなかった。街自体は小さくいくつかモスクがあるだけで他に取り立ててみるものは何もなかった。僕は特に何かを見に行くわけでもなく、ダラダラと宿でネットをしたり日本の友達とスカイプをしたりして、余った時間に散歩をするように街を観光した。

街は小さいが本当に綺麗だった。ここがスイスだと言われても信じられる。裏路地に行けば古い建物や崩壊寸前の建物もあるが、それでもそこに住んでいる人たちは笑顔だった。メインのとおりには川のせせらぎが聞こえ、時間になるとアザーンがなりヨーロッパの街並みなのにイスラムの雰囲気になる。モスクの中もイスタンブールと同様に美しい絨毯とシャンデリアがある。

あのコソボ紛争のあったコソボとは思えないのどかで素敵な街だった。

また、コソボの人々はよく話しかけてきた。アジア系の顔の人がこの国に来ること自体が珍しいからだろうが、とにかく男性も女性も、子供もおじさんも、わけのわからないアルバニア語で、「ハロー、ワッツユアネーム?ハウアーユー?」といった知っている英語で、とにかく話しかけてきた。

ヨーロッパで現地人が旅行者に好奇心から話しかけてくることなど基本的にはない。この純朴さは僕をまるでアジアにいるかのような気分にさせた。

ヨーロッパにこんなところがあるなんて想像もしていなかった。事実、今までさまざまなヨーロッパの国をまわってきて、ここまで目を輝かせて外国人に話しかけてきた国を僕は見たことがなかった。

僕はコソボで友達もいなく完全に一人旅であったが、この街中の人たちの屈託のない笑顔と純朴さに心を打たれ寂しさは一切なかった。

赤いレンガの街並みと綺麗な山とモスクと、そしてここに住む人々の純朴な笑顔のおかげで、やっぱり旅は楽しい、好奇心はまだ失っていない、と思えた。

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