メキシコ旅行記/メキシコでスペイン語留学?



〜クレイジーカントリー〜

「エレス、アリス?」
「スィ!」

アリスだ。今まで、ずっとネットでしか話していなかった人とリアルに出会えた。何故かは分からないけど感動した。

挨拶のハグをした。やっぱり初対面でもハグをする。外国では当たり前のことだった。忘れていた。

バスステーションで数分彼女と話した。

訳が分からなかった。自分でやっておきながら今自分がやっていることの意味が分からなかった。偶然ライブモカというサイトを見つけて偶然サイト上でメキシコ人に話しかけられて、偶然話をして、偶然仲良くなって、偶然メキシコに行くことになって、そして偶然日本の裏側で年齢も性別も国も文化もまったく違う人とハグをして、英語でも日本語でもないまったく違う言語で話をしている。

でも、これは現実だった。仮想の友達は現実の友達へと変わった。



セントロ(街の中心部)に移動することになった。

彼女のお母さんとその友達も一緒に来ていた。彼女はお母さんに僕の存在を事前に知らせていた。そしてみんなで迎えに来ようという話をしていたようだった。とりあえずムーチョグストとグラシアスを連呼して自分の気持ちを伝えた。

みんなで一緒にセントロに向かう。どこに行きたいか尋ねられたのでまずは安宿に行きたいと告げ、地球の歩き方に載っている安宿の住所を見せた。宿の住所を頼りに車は走っていく。

20分ほどしてセントロについたが、どうも宿の場所が分からないらしい。そのまま困っていると「今日は私の家に泊まる?」と彼女のお母さんの友達が言った。願ってもない事態である。スペイン語の勉強はこの旅の一つの目標になる。たとえ一日だけだとしても、現地人の家にステイできるということはこの上ない経験である。



・・そのまま、事態は急展開を迎えた。

もともとグアテマラのアンティグアでスペイン語の学校に行く予定だったが、ケレタロの安いスペイン語学校を紹介してくれることになった。

彼女らは安宿を見つけてくれ、紹介してくれた学校に連れて行ってくれた。グアテマラの学校よりは若干、割高であるが、とりあえず信頼できる現地人が近くにいるというメリットは大きい。

すでにキューバ行きの1ヶ月FIXのチケットを買ってしまっている。とりあえずここに数日間滞在し、キューバへ向かい、ケレタロに戻り、1ヶ月半くらい滞在するという予定を立てた。ここに3ヶ月ほどいることも考えたが、オーバーステイや学校の値段のこと、アリスのことを考えてやめた。アリスはずっとここにいてほしそうだったが、旅の途中である。ここにずっといたいとも思ったがそういうわけにもいかない。




アリスとその家族はこのわけのわからない日本人のために色々なところへ連れて行ってくれた。アリスが忙しいときはアリスの友達のインディラが街を案内してくれた。

ケレタロの街は異常なまでにアトラクティブだった。
スペインのコロニアル風の建物が並ぶこの街は、毎日教会の鐘がなり、花火が打ち上げられる。広場に人々が集まり、祭りのような雰囲気をかもし出している。普通の日に普通の広場でなぜかマスコットが踊っている。ヨーロッパの古都のような雰囲気でありながら、ヨーロッパと違う。ヨーロッパみたいに落ち着いていない。街全体がディズニーランドである。

そして、メキシコ人はみんなクレイジーだった。
レスタウランテ(レストラン)に行けば楽団が突然乱入し、マリアッチを演奏し始める。バル(バー)に行けば、知り合いでもないその場にいる人全員でメキシコの音楽をカラオケで歌い、テキーラを飲み、騒ぐ。店員が誤って瓶を割れば大歓声が起きる。そして、また話し、笑い、歌う。恋人たちはこのディズニーランドのような街中で平気でキスをする。恋人でなくても男女は挨拶で軽いキスをする。みんな約束した時間に平気で遅れる。知り合いのライブに行けば朝まで演奏し、疲れた体で真夜中に運転して帰る。何も気にしない。細かいことは誰も何も気にしていない。みんないつも楽しそうに笑っている。何も考えずに話し、歌い、笑っている。

・・・日本の裏側のラテンアメリカの国は、クレイジーさ満点だった。

こんな国があるのか。今までいろんな国へ行ったけど、ここまで国全体がテーマパークのようにアトラクティブな国はなかった。この国は何かがおかしい。

数日前、高山病と風邪で地獄を見ていたのが嘘のようにこの街で天国を見た。

何でこんなことしているんだろう?と考えたが、いいんだ。何しにきたかと言えば、旅とスペイン語の勉強だ。毎日強制的にスペイン語を勉強している。アリスもインディラもその家族や友達も誰も、日本語はおろか英語を話せない。話さないのではなく話せない。こちらがスペイン語を話すしかない。スペイン語がわからなければまったくコミュニケーションが取れない。そして共通言語が一切ない状況だとこちらも必死になる。言語以外の部分でのコミュニケーションを全力で取ろうとする。スペイン語を勉強するには最高の環境である。




学校に行くとしても時間が足りない。学校での授業は一日2時間程度である。もうちょっと長時間勉強したいが、そこまでお金がない。
この事情をアリスとインディラに説明して、お金を払うから、スペイン語の先生になってくれるよう交渉した。二人ともお金は要らないと言った。なぜ、突然現れたわけの分からない日本人の旅人にここまでしてくれるのか?もちろんバスステーションに迎えに行って数日街を案内してくれるくらいは期待していた。でも安宿を見つけてくれ、学校を見つけてくれ、ここに長期間いてほしいと言われ、1ヶ月以上スペイン語の先生になってくれるのである。
何か裏があるのかとも考えたが裏もなさそうだ。もし裏があってお金を騙し取ろうとしているなら、今騙し取るだろう。いちいち長期滞在を勧めてこない。

どうすればいいんだろう?本当にこの優しさに甘えていいのだろうか?優しすぎて泣けてくる。彼女らのために自分にできることを考えた。でも、自分は彼女らに何も出来ない。というよりも何かをすることは求められていない。

とりあえず自分に出来ることは彼女らに迷惑をかけないように、そして全力を持って楽しませよう。日本人として外国人に出来ることを思いつく限りやろう。



・・・屋台で明らかに体に悪そうなジュースと値段の割りに異常に大きいピザやタコスを食べながら、色々と考えた。そしてこのお伽の国のような、ディズニーランドのような、意味不明のクレイジーな街から出る準備をしていた。

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