南米旅行記/ナスカ
 



〜煽り〜

クスコからの夜行バスはアンデス山脈を越えるため、寒く、気持ち悪くなるくらいにバスは揺れた。だが、宇宙かと思えるほど星は綺麗で、僕はバスの中で眠れずに星を見ていた。

ナスカの地上絵で有名なナスカには朝方に到着した。だが、僕がここに来たのはナスカの地上絵を見るためではなかった。僕はこの街で友達と待ち合わせをしていた。彼がフェイスブックのメッセージで送ってくれた住所を頼りに、僕はセントロからちょっと離れた宿に向かい、チェックインを終えてベッドに横たわった。ほとんどバスの中で眠れていないにもかかわらず、なぜか目はさえていた。

ロビーに行き、ソファーに座っていると友達は現れた。彼の髪の毛は伸びていた。

トミ。旅の始まりのころにキューバで会い、語りに語った仲だった。

僕らは握手をして、一緒にローカル食堂でご飯を食べ、その辺を散歩した。ナスカはただのペルーの田舎町だったが、観光地化されておらず地元の人しかいないというのは、マチュピチュ、クスコという一大観光地から来た僕にとっては新鮮で好ましいものだった。

 

彼はキューバで会った後、メキシコからアルゼンチンのウシュアイアまで、中南米を自転車で縦断しようとしていた。途中、グァテマラで強盗に会い、コロンビアで犬にかまれ、ペルーでスリに会って300ドルなくしていた。彼はキューバで会ったときにすでに怖いという感覚を失っているようだったが、8ヵ月半ぶりに再会して、その感覚のなさに磨きがかかっているような感じがした。

こんな状態になりながらも何事も適当で、ヘラヘラしながら自転車で旅をする彼のクレイジーさが、僕は好きだった。

僕らは午後3時くらいにすでにやることがなくなり、何かアルコールを飲むことにした。ピスコというペルー名産のアルコールをインカコーラというペルーにしか売っていないコーラで割り、部屋で飲み始めた。

キューバと同じように、彼とは語りに語った。ピスコはアルコール度数が50度近くあり、酔っ払いすぎて気持ち悪くなったが、それでも無駄に語っていた。彼との話は楽しかった。彼も僕も明らかに頭がおかしいので、言っている事もおかしかった。彼のアナーキーでニヒリストなところは僕と考えが違っていても、話していて共感できる部分が多かった。

酔っ払いながら彼は僕を煽った。

「中南米終わったらヨーロッパ行くんですか!?ヨーロッパなんてつまんねーっすよ!!!やっぱり行くんならまだ行っていない新大陸のほうがいいんじゃないっすか!?俺らに残されたのってもうあそこしかないっすよ!!」

・・あの大陸は行く予定はなかった。なぜかあの大陸だけは興味がわかない、そして何よりも中南米と同じくらい危険といわれている場所。ここまで無事にやってきてまた危険なところへ行くのはちょっと怖かった。常に危険と隣り合わせのこの中南米という地域を無事にきているのに、さらに危険地域に行くのはやはり慎重にならなければいけなかった。

この煽りは嬉しかった。僕は一瞬煽りにのろうと考えたが、それでも実際に行くかどうかは迷っていた。

6時間ほど語ると、僕は気持ち悪くなり部屋に戻った。何度も吐きそうになり、ベッドに横たわりながら何度もうなされた。苦しみながらもあの大陸のことを考えていた。

確かに中南米の旅は楽しかった。ウユニ塩湖、イグアスの滝、マチュピチュと素晴らしい景色を見れ、何よりも多くの素晴らしいラテンアメリカの人たちと知り合い、語り合い、心から通じ合ってきた。この旅で多くの人に感謝している。だが、刺激、旅という点においてすべてがスムーズに行き過ぎているという現実もあった。

彼に比べて僕はバスで移動し、観光をして、現地人とかかわるということしかやっていない。心の底から旅を楽しみながらもやはり日本に帰ったときのためにお金は残しておきたい、、、こういう気持ちもあった。彼と比べると自分は守りに入っているなとも思った。それは決して比べることでもないし、旅のスタイルは人それぞれだが、ちょっとだけ冒険がしたかった。



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眠ったのか眠っていないのかもわからない状態で、朝を迎えた。トミも同じように気持ち悪くなっていたようだった。

「リアルに生命の危機を感じるくらい気持ち悪かったっす。」と彼はテンション下がり気味で言った。僕らは前日の高いテンションが嘘の様に気持ち悪さで何もできずにベッドで休んでいた。

・・・「行こうか。アフリカへ」

気持ち悪くなりながらもそのことは頭から離れなかった。

僕はアフリカに行くルートを考えた。イスラエルからトルコに戻るチケットを捨ててエジプトから南アフリカ共和国を目指すか、それとも一度イスラエルからトルコに戻り、ヨーロッパをある程度1周してからトルコ経由でイランに行き、イランから船でUAEに渡り、イエメン、オマーンを通ってエチオピアに入るか、その二つのルートを真剣に検討し始めた。

だが、それはまだ先のことだった。中南米後のルートを決めるのはまだ早い。先のことを考えるよりも、今は中南米という地域を最後の最後の最後まで楽しみながら旅しようと決めた。

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