サンチャゴ旅行記/サンクリストバルの丘



〜ビバチレ!〜

タマラの家の辺りからはアンデス山脈がよく見えた。昔、ヒマラヤを見るのには苦労したのにアンデスはこんなにも簡単に毎日見ることが出来る。「僕はヒマラヤよりもアンデスに好かれているのかも知れない」とくだらないことを考え始めた。

アンデス山脈

タマラの家で僕は必要以上に話を盛り上げていった。彼女と彼女の両親は始めはものめずらしそうに外国人を見ていたが、徐々に僕の性格を分かってくれ、妹のソフィアも少しずつなついてくれるようになった。



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サンチャゴの中にサンクリストバルという丘がある。ここから見えるアンデスの景色が美しいと言うことが地球の歩き方に書いてあり、サンチャゴに来る前から楽しみにしていた。僕はタマラと従兄弟のジェリコと、そしてタマラを紹介してくれたコテと一緒にこのサンクリストバルの丘に登った。

丘の頂上まではロープーウェイでいけるらしいが、何故か歩いて頂上まで行くことになった。5キロの道はそんなに険しくなかった。僕はジェリコと一緒に話をしながら、そしてコテとタマラと遊びながら、ハイキング気分で頂上を目指した。途中に見えるアンデスの景色は息を呑むほど美しかった。

アンデス山脈

頂上にはマリア像がある。リオデジャネイロのキリスト像と同じくらい大きく、そして綺麗だった。リオデジャネイロにいけなかった事は残念だったけど、サンチャゴでも同じくらい素晴らしいものを見ることが出来た。

サンクリストバルの丘のマリア像

その夜、ジェリコとコテと別れ、タマラの家に戻ってきたとき、タマラと近所の公園に行った。この公園で彼女と数十分話をした。タマラは段々と僕に心を開いてきてくれているようで、生意気さはなくなり、少しだけ素直になったようだった。

「私は今度の日本語のスピーチ大会、日本の地震のことをやろうと思ってる。日本人はすごいよ、あれだけのことがあっても立ち直ろうとしている。本当に外国人から見て日本人はすごい」

タマラはこんなことを僕に聞かせてくれた。僕はなんともいえない気分になった。日本が嫌いか好きか、それは僕にはわからないことだけど、海外の人からこんな風に見られているということが、何か胸に響いた。論理的に説明できないけれど、何に感動したのか分からないけれど、確実に僕は感動した。



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タマラの家に日本人が来ると言うことで、親戚や友達も日本人に会いたいということになった。僕はジェリコの家のフィエスタに呼ばれ、ウイスキーやロンを飲んだ。チリはラテンアメリカの中で最もアメリカ合衆国に影響されている国だとどこかで聞いていた、その話をするとみんな口々にペルー、ボリビア、アルゼンチン、キューバのことを悪く言っていた。周りを敵国に囲まれている状況は日本と通じるものがあった。

だが、次第に小難しい話しはどうでもよくなり、僕はこの上なくハイテンションになった。とにかく無駄に話しをして、無駄に「ビバチレ!(チリ万歳!)」と叫んでいた。

とにかく訳がわからなくなり、記憶もなくなったが、チリ人はクレイジーなほどによく笑い、楽しんで毎日をすごしているのだということだけは分かった。ラテンアメリカの国の中で一番日本に感覚が近く、僕の感覚の中では一番まともな国だと思っていたチリがこんなにもクレイジーな人達で、そしてこんなにも日本人を好きになってくれていることが、僕には嬉しくて嬉しくてたまらなかった。嬉しいという言葉では表現できないほど、胸が痛くなるほど、どこか切なくて、でも嬉しくて、意味がわからなくなるくらいに感動した。

僕は途中で眠ったが、朝まで彼らは飲んでいた。どうやらコカインをやっている人もいたようだった。中南米ではマリファナやコカインはごく普通のものだということは知っていたので大して驚かなかった。タマラはアルコールやドラッグ類は一切やっていないが、朝までみんなと話をしていたようだった。彼女もこの雰囲気にやられ、とにかく楽しんでいるようだった。

一緒に家に帰り、アンデスの見える広場に行った。タマラは僕がもうすぐいなくなることで泣いてくれた。「ごめんね、私、まだチキティータだから・・」と言って号泣した。僕は本当に彼女に感謝した。そこにはもはや一切の生意気さはなかった。素直でかわいらしい純粋な女子高生だった。

こんなにも楽しい思いをさせてもらい、そしてなおかつ感謝されて、僕は申しわけなさと同時に、旅していて良かったと思った。色々なことを考えるけれど、自分自身に疑問になることもあるけれど、でも、僕は今やっていることが、誰かを幸せにしているということだけで、例え目に見えなくても、だれかが笑ってくれるということだけで、満足だった。これ以上は何もいらなかった。「本当にありがとう」と何度も彼女に言った。スペイン語でも日本語でも言った。

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