中米旅行記/ホンジュラス



〜得体の知れない虫〜

メタパンでふとフェイスブックを見ると、一通のメッセージが届いていた。

「私はあなたに決めました。あなたを愛しています」という内容だった。Yは酔っ払っていた。

旅を続けていた僕は、彼女のことを少しだけ忘れていた。

驚いた。突然、これは冗談なのだろうか?だが、僕は彼女がこういうことで冗談を言う人ではないことを知っていた。

・・・・これは本気だ。僕はサンサルバドル最後の夜にスカイプをして彼女と話した。

そんな事情から、前の日は眠れなかった。コーヒーを飲みすぎたのかもしれない。眠ろうとしても蚊が襲ってきてかゆくて起きてしまう。蚊が来ないように扇風機を全快にした。

熱帯の発展途上国を旅する上で、蚊との戦いは避けられない。僕は今まで嫌と言うほど経験していた。フィリピン・タイ・ラオス・カンボジア・インド・バングラデシュ・・・アジアの数々の国で戦ってきた蚊。そういえばキューバでも戦っていた。

メキシコは先進国だからかそれとも単に気温が低いからかは分からないが、蚊は出なかった。僕はマルビンの家で蚊にさされたときから、この熱帯地域での蚊との戦いを思い出してきていた。



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起きて出発したときにはお昼12時を周っていた。これからホンジュラスに向かう。

近くのプエルトバスターミナルに行き、目的地であるホンジュラスのチョルテカ行きのバスの時間を聞いたが、ここではなく東バスターミナルから出ているといわれた。しかもテグシカルパ行きしか国際バスはなく、チョルテカへ行くには一旦ホンジュラスとエルサルバドルの国境の街、アマティージョに行かなければならなかった。

普通、バックパッカーは中米を周るときに国際バスを使う。現地人が使うバスはセキュリティーが厳しくなく強盗がでる可能性があるからだ。だが、それでは現地には入り込めない。そのためローカルバスに乗りたいと思うバックパッカーもいる。僕にとってはどっちでも良かった。とりあえずコスタリカを目指す。それだけだった。

東バスターミナルに市内バスで向かうがここからアマティージョ行きのバスは出ていないと言われた。僕は仕方なくまた市内バスに乗り込んで西バスターミナルに向かった。本当は強盗やスリが多いため、大きい荷物を持っているときは市内バスもできるだけ使わないようにしたかったがなぜかまたも無駄な意地が働いた。

西バスターミナルに行き、雑踏の中バスの客引きに連れられてそのままバスに乗り込んだ。ローカルバスは狭く、暑かった。国際バスはエアコンが効いているがローカルバスにそんなものはない。窓を開けても熱風しか入ってこない。席も狭く異常にぎゅうぎゅうずめになることがさらに暑さを助長させた。

バスはところどころ停車し、数々の売り子が入ってきた。売り子は大きな声で水や果物やお菓子を売ってきたが、僕は完全に無視していた。

暑さ、うるささ、狭さ、この不快感。僕は完全に旅をしている。

バスは数時間後にとある街に着いた。この街がアマティージョだと勘違いした僕は、道行く人に国境の場所を聞き、歩いた。どの人に聞いても同じ方向を指差すため、方角だけは確信していた。

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段々と日が暮れ始めていた。中米においてどことも分からない場所に夜一人でいることはどういうことなのか?それを考えると段々と怖くなってきた。

現地人のおじさんはバスはなかなか来ないから8ドル払えば俺がトラックで連れて行ってやると言った。あまりにも高い値段に僕は一度断ったがこんなどことも分からない場所に夜一人で入るわけには行かなかったので交渉して7ドルで連れて行ってもらうことにした。

トラックの荷台にのり山道を走った。荷台に乗り込み国境を目指す。旅の感覚がよみがえり僕はなぜか嬉しくなった。辺りは暗く、7ドルも払わされてトラックの荷台に乗っているという普通に考えれば最悪の状況にも関わらず嬉しくなっている自分はやっぱり頭がおかしいのかもしれないと思った。

トラックは国境にたどり着いた。荷物を盗まれないように注意して、イミグレで入国税を払いホンジュラス入国を果たした。ちょうどイミグレで審査を受けていた時に停電になった。辺りは真っ暗で国境の辺りには何もない。そして現地人が両替を迫ってくる。疲れと不眠と恐怖がどんどんと襲ってきた。

真っ暗な道路の中で車のライトだけを頼りにチョルテカを目指そうとバスを探した。が、どうやらバスはもうないようだった。

真っ暗な道路の中で今度は宿を探した。一軒の宿を見つけ、真っ暗闇の中宿のスタッフらしき人に値段を聞くと14ドルと言われた。宿のクオリティーは異常に低く、こんな宿に14ドルも払うことはできないと思ったが、あの真っ暗な道路に戻りたくなかった。僕は13ドルにしてもらいこの宿に泊まることにした。

しばらくすると停電は復旧した。宿は異常に汚かった。部屋は明らかに掃除をしていなく埃まみれだった。扇風機の前面部分がなくなって羽がむき出しになっていて、ロビーや中庭にはゴミが当たり前のように落ちていた。シャワーの水も出ない。「どうせ一泊だけだ。」と思い、蚊がこないように扇風機を全快にしてすぐに寝た。



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隣からピアノの音と歌声が聞こえる。宿泊客なのかここのスタッフなのか分からなかったが、隣の部屋で歌を歌っているようだった。うるさくて眠れなかった。僕は隣の部屋に行き静かにしてくれと言った。分かったのか分かってないのか定かではないが申し訳程度にピアノの音は小さくなった。それでも眠れないことには変わりない。耳栓をして無理やりにでも眠った。



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全身がかゆい。扇風機をつけていて蚊はこないはず。そして腕を触ってみると大きく膨れ上がっていて熱を持っている・・・

これは・・蚊じゃない。
何か・・・得体のしれない虫がいる。

シャワーも浴びれず、体の知れない虫によって全身がかゆい。もうどうしようもない。とりあえず自分のバスタオルをベッドに敷き、かゆみを我慢しながら寝た。

僕は中米に打ちのめされた。が、そんなに悪い気分ではなかった。

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